パパの仕事はアカネ色 第一話 猫占い
パパは怠け者
「淑子ちゃんのお父さんはどんなお仕事をなさっているの」と、早苗先生がききました。
今日、淑子は小学校一年生になりました。最初の授業なので、
担任の早苗先生が子供たちに自己紹介をさせました。他の子が、
「僕のパパは検事だ」とか、
「あたしのママはお医者さんよ」とか自慢して言うのに、淑子ちゃんだけは自分の番が近づくにつれ、
おびえて困っているようでした。だから、早苗先生も淑子ちゃんと同じように、胸をどきどきと心配しました。
淑子ちゃんは、これから冷たいプールにでも入る、といった様に体をブルルとしてから、
「お父さんのお仕事は電話をかけることなの」と答えました。いったん口から言葉が出るとほっとしたのか、
麗しい笑顔を作り、
「それから、わたしの絵を描いたりするの、でも、お絵描きはお仕事じゃないのよ」と付け加えました。
聡君が元気良く、
「先生、電話をかけるって、そんな仕事なんかあるんですか」と質問しました。聡君は検事の子でした。
教室はすこしざわめきました。淑子ちゃんの身上書には、パパやママの仕事欄に
「自由経済の仕事」と書かれていましたので、早苗先生も淑子ちゃんのパパがどんな仕事をしているのか、
知りたかったのです。早苗先生はがっかりしましたが、
「淑子ちゃんのお父さんの仕事はとっても難しいお仕事のようですね。ハイ、次は。君江ちゃんの番ですよ」
と言いました。
席についても、淑子は胸のどきどきがおさまらず、
「よその子はいいな、パパの仕事にちゃんと呼び名があるんだもの」などと考えて、
他の子の自己紹介をちっとも聞いていませんでした。
小学校の生活が始まって、淑子はとても幸せでした。
パパは授業参観日、ピーティエー、運動会などのほか、どんな些細な用事でも必ず学校に来てくれました。
淑子の家にはママがいませんでしたが、ちっとも困らないと思いました。
ある授業参観日のこと、ふと後ろを振り返ると、他の子の親は皆ママが来ているのに、パパは淑子の家だけでした。
ママたちがひそひそ話し合っては笑うと、淑子はパパのことではないかと心配しました。
親たちが帰り、休み時間になると聡君が来て、
「淑子の家はいいな、パパがひまだもんな。ママに仕事させてんのか」と言いました。
淑子は、「ひま」の意味が分かりませんが、悪口を言われていることは分かりました。
だから目を赤くして、涙をぽろぽろ流しました。君江ちゃんが飛んで来て、
「聡君、ひどいわね。淑子ちゃんのうちはママがいないのよ、先生に言いつけるわ」と言いました。
君江ちゃんのママはお医者さんでした。聡君は慌てて、
「ごめんよ、ごめん」と、言って逃げて行きました。
家に帰ると、パパはご機嫌が悪そうでした。仕事がうまく行かない日は、パパはいつも腹を立てていました。
パパの怒りはパパ自信に向けられて、
「こんなことでは駄目だ」と、つぶやきました。
そんな時、淑子はパパと二人だけであてどなく荒野をさ迷っているような気持ちに襲われました。
淑子は近づかないようにして、座布団の上で丸くなっている猫のウーボを捕まえて、
そっと自分の部屋に逃げて行きました。ウーボはチンチラ種の雄猫で、とても豊かな白い毛に包まれていました。
淑子はウーボを抱きしめると暖かくて、優しい気持ちになれました。
淑子はパパの機嫌の良さそうな日に、思い切ってパパの仕事のことを聞きました。
というのは淑子が学校でパパの仕事のことを隠すので、かえって注目され、
皆に教えてあげないと「意地悪」とか「けち」とか言われるのでした。
「淑子がちゃんとお夕飯を食べて、お風呂を済ませたら教えてあげるね」と、パパは淑子に言いました。
そうすれば大概淑子は幸せになって寝てしまうのでした。
淑子はお風呂から出てきても、パパへの質問を忘れませんでした。部屋を暖かくして待っていたパパは、
仕方なく話を始めました。
「どんなに良い仕事でも、それを続ければ、お食事を永遠に貰い続けることが出来るとは限らない。
人は蟻やキリギリスよりもずっと長く生きるからね。まず始めに、パパが本を読んであげるから、
その後で教えてあげようね」と言って、イソップの『蟻とキリギリス』の絵本を淑子に読み聞かせました。
淑子が眠そうな様子なのでパパは、
「明日の日曜日に植物園に行こうね」
と言いました。淑子はうとうとしながら思いました。
「植物園には蟻もキリギリスもいるわ。パパの秘密を解くヒントがあるに違いないわ」
・・・・
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